対戦成績でははかれない棋士たち 森内俊之「十八世名人」&豊島将之「三冠王」「竜王名人」 編

 対戦成績の偏りが、顕著な組み合わせがあったりする。

 スポーツなど勝負の世界を見る楽しみに、何勝何敗みたいなデータから、

 

 「この選手はこの選手を苦手としているな」

 「こっちより、こっちの方が格上か」

 「〇〇はもう、大きい勝負で■■には勝てないだろう」

 

 なんて、あれこれ分析したり、妄想を交わしたりするのがある。

 実力は拮抗してるのに、対戦成績ははなれていたり、また強いと思われていない選手が決勝戦など大一番では妙に勝率が高かったりとか、意外な数字が出てきたりしておもしろいのだ。

 ただときには、そういう「の結果」だけでははかれないケースもあったりする。

 テニスのノバクジョコビッチはデビュー時からその強さこそ認められいたが、今のような「史上最強」にまでなるとは思われていなかった。

 アレルギーなど体質に問題があったことがわかるまでは、ロジャーフェデラーラファエルナダルに勝てず「万年2位」と揶揄されていたものだった。

 先日亡くなった長嶋茂雄さんは金田正一さんとの初対決では4打席4三振だったが、その後は打ちこんでいたりとか。

 藤井聡太八冠豊島将之九段に初対戦から6連敗したが、そのあとはタイトル戦などで、たっぷりとお返ししている。

 たとえば、森内俊之九段などもそうだろう。
 
 森内はデビューしてすぐに全日本プロトーナメント(今の朝日杯)に優勝するなど、破格の活躍を見せ、この世代が並でないことを最初に示した男でもある。

 

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 ただ、棋戦優勝は多いのにタイトルには縁がなく、「無冠の帝王」などという不名誉な称号をもらったりしていた。
 
 初タイトルは、なんと31歳名人獲得とずいぶんと遅かったが、ここで明らかに「を破った」感があった。

 翌年の2003年には羽生善治から4連敗で名人を奪われるも、森内はくずれることなく精進。

 ここから大逆襲を開始し、同年の竜王戦中原誠永世十段を破り挑戦者に。

 

 

 

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 七番勝負では、なんと4連勝で奪取と名人戦のお返し。

 羽生のタイトル戦ストレート負けは初めてで、それだけでも大きな衝撃だったが、続く王将戦名人戦でもともに4勝2敗奪取し(ちなみにA級でも9戦全勝での挑戦だった)、一気に「三冠王」に輝いたのだ。

 

 

 

 

 この図は2004年、第62期名人戦第1局

 中盤の戦いに見えるが、なんとこれが投了図

 たしかに先手陣は食い破られ、後手の穴熊も健在で先手がかなり苦しそうだが、それにしてもここで投げるのはビックリ

 羽生の闘志がなえたのだろうか、ともかくも当時の「勢い」を象徴するような図で、今度は

 

 「将棋人生の形勢逆転

 「羽生はもう、森内に勝てないのではないか?」

 

 という雰囲気になったほどで、それほど、このときの森内は強かった

 ただ、羽生もさるもので四冠をねらいに行った王座戦では3勝1敗返り討ちにし(もし負けていれば、羽生はここで無冠になっていた)、翌年の王将戦では4連勝で奪い返すキビシイお返し。

 

 「やっぱり王者は羽生か」

 

 との声が再燃するも、名人戦フルセットの末かろうじて防衛すると、これまた紆余曲折あって羽生よりも先に十八世名人」の座をゲット。

 

 

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 実績だけで言えば、羽生(タイトル99期、優勝46回)と森内(タイトル12期、優勝13回)ではかなりこそあるが、この
 
 
 「先に永世名人
 
 
 というボーナスポイントは相当なもので、スコア以上に「森内やったなー」と思わせる結果となっている。

 勝負の世界では「たくさん勝つ」が偉いわけだが、「いいところで勝つ」ことも、また大事なのだ。

 似たようなケースで、その実力にかかわらず長くタイトル優勝に縁のなかった棋士豊島将之九段がいる。
 
 20歳王将戦に登場してから、なかなかそのを越えられなかったが、初タイトルの棋聖を獲得してからは、「三冠王」に「竜王名人」。
 
 一般棋戦でもNHK銀河戦のテレビ棋戦を取り、上位者選抜の日本シリーズ3回優勝と充分な実績。
 
 今では豊島が「タイトルを取れないまま終わるかも」と心配していた時期など、みな忘れていることだろう。
 
 ただ、取るものはひと通り取っている豊島だが、森内とくらべると「ボーナスポイント」的なインパクトには欠けるかもしれない。
 
 やはりそこは、森内のように
 
 
 「藤井聡太に大舞台で痛い目を合わせる」
 
 
 ことが期待されるわけだが、それはどうなるか、これからのお楽しみだ。
 

 

 

 ★おまけ

 

(羽生に苦しめられていた森内たちライバルが、どうやって「逆襲」に転じたかは真田圭一八段のこの動画が参考になる)

 

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