く……ぬかったわ。
このわたしが、角道を止める振り飛車ごときに敗れるとは……。
だが振り飛車党どもよ心せよ。
人の心に闇があるかぎり、決してお前たちに平安などないと。
「ひふみんのファンだから棒銀やってみたけど、全然▲26の位置から、さばけない」「舟囲いはうすすぎて、急戦から優勢になっても勝ちにくいよ!」
「天守閣美濃は玉頭が寒いし、左美濃や銀冠も相手の角筋に入ってイヤなんだよなー」
などと考える居飛車党どもがいるかぎり、どれだけ地中深くに封印しようとも、居飛車穴熊はいつの日か、かならず復活することになるだろう。それまで一時、世界はおまえたちにあずけておこう。
だが、かならず戻ってくるぞ。そのとき、またしても、あの恐怖の日々が繰り返される。
我々はよみがえるぞ、かならずだ。ワッハッハッハッハ……。
……ということで、ノリと勢いではじまった居飛車穴熊のお話。
「みんなが振り飛車ばっか指すから、オレ様が振れないじゃん!」
「あれ? だったらこの世界から振り飛車党を一掃すれば、自分だけ振り放題じゃね?」
との鋭利なロジカル・シンキングの末、悪の組織「ゲル・イビアナ団」を再結成。
穴熊を得意とする改造人間を送りこみ、正義の振り飛車党どもをやっつけようと日々画策中だ。
そんなイビアナだが、ではそもそも最初に居飛車穴熊を指して、我が組織の前身である「イービル・アナグマ団」(略称「イビアナ団」)の先鞭をつけたのは何者か。
それは我らが大幹部、「イル・マエストロ・バルブート大佐」こと升田幸三九段。
大佐は「高野山の決戦」で敗れて闇落ちし、自らに改造手術(長期療養)を施してまで「打倒・大山康晴」に挑むハカイダーか四乃森蒼紫のような男。
居飛車の穴熊自体は、それまでもあったことはあったのだが、手詰まりを解消するために矢倉から組みなおすような、副次的なものだった。
そこを最初から振り飛車相手に「居飛車穴熊」で戦うという意志を持って臨んだのが大佐なのである。
しかも舞台が名人戦。
1968年の第27期名人戦、その第2局でお披露目となったのだ。
このころの升田は、「史上初の三冠王」(当時の全冠制覇)を達成し、なんとライバルである大山康晴相手に、
「名人に香を引いて勝つ」
という、とんでもないはなれわざを演じ頂点を極める。

1955年、第5期王将戦の第4局。升田はなんと時の名人である大山を指し込んで「香落ち上手」で戦い、しかも勝利する。
だが、その後は大山の巻き返しにあい、今度は押し戻されていく。
名人戦などで幾度もタイトルを争うが、すべて大山がモノにし、完全に「大山時代」をアシストしてしまうことに。
この「初」居飛車穴熊は、まさにその勝ててない時代の産物で、なんとか無敵の「大山振り飛車」をくずそうとの試行錯誤だったのだ。
それが、この図。

もう言われつくした感想だが、今見ても違和感のない陣形で、令和の将棋と言われても納得してしまうところ。
これが60年前の将棋と言うのだから、うなるしかない。すでに完成形。
よく「序盤は升田が、中終盤は大山が時代の30年先を行っていた」と言われるが、非常に説得力を感じるところだ。
余談だが、左美濃を最初に指したのも升田で、木村義雄名人に快勝している。

ホンマにヒゲの大佐は、なんでも思いつくなあ。
かつて羽生善治九段が、歴史上の棋士で指してみたいのはだれ? という問いに、
「升田先生の序盤戦術を味わってみたい」
と語っており、佐藤康光九段も、
「升田先生に指定局面を100個くらい持っていって、かたっぱしから私と指してもらいたい」
なんて熱望するその創造性には脱帽しかありません。
さて、そんな穴熊デビュー戦は将棋の方も熱戦になり、図は升田が端からつっかけたところ。

△同歩は▲同香から一歩手に入れて、▲24歩、△同歩、▲23歩がねらい。
それが実現すれば先手優勢だが、ここからの大山の構想も流石。

△61飛、▲14歩、△65歩。
6筋に飛車を転換し、飛角銀桂で総攻撃。
「藤井システム」に多大な影響をあたえた、小林健二九段による「スーパー四間飛車」につながる攻め筋。

そのために金を△63に上がってないのが周到なところで、なるほどなーと。
その前にも、早めに△54銀と上がって▲66歩を強要し、角筋を止めさせるなど、今にもつながる感覚。
升田の発想力もすばらしいが、初見(!)でそれに見事な「正解」をたたきだす大山も、また化け物である。
たぶんアレですわ。この2人は令和の若手棋士がタイムスリップして昭和で戦ってるんですわ
とか映画『侍タイムスリッパー』(激オモロ映画ですよ!)観たのがバレバレなこと思ってしまうくらい、この2人の感覚は抜きんでていたわけですね。
(続く)



















































































