(YouTube書き起こし)
こんばんは、岡田斗司夫ゼミの時間です。
今日もね、ガンダム講座やって行こうと思うんですけど。
『機動戦士ガンダム』ってね、元ネタとしてロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』と『月は無慈悲な夜の女王』があげられるんですけど、実はもうひとつあるんですね。
それが将棋の居飛車と振り飛車の対抗形で、特に居飛車穴熊の棋譜なんですよ。
(パネルを出して)たとえばこのシーンなんですけど、

シャアがザクでホワイトベースを追いかけてくるのに、アムロでガンダムを出すんですけど、
「このスピードで迫れるザクなんてありはしません。1機のザクは通常の3倍のスピードで接近します!」
このオスカーのセリフって、まんま久保利明九段なんですね。
ほら、久保先生って通常の3倍の速度で、さばくじゃないですか。だから、「さばきのアーティスト」って言われるんですけど。
で、それに新人棋士が対抗するんですけど、全然スピードについていけないんですよ。
「見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを」

この「連邦のモビルスーツ」は、穴熊のメタファーですよね。対振り飛車用の新兵器。でも、まだみんなその強さがよくわかってない。
だから、久保先生も余裕なんですね。ところが、マシンガンを撃っても全然通らない。
「……バカな、直撃のはずだ!」
そりゃね、効くはずないんですよ。四枚穴熊に軽くさばく棋風は火力が圧倒的に足りない。左美濃や舟囲いとはちがうんですよ。
で、反撃された久保先生も、
「当たらなければどうということはない!」
とか言って、まあそれはそうなんですけど、逆に言えば一発でも「当たったら終わり」なんですよ。
なんせむこうは「穴熊の暴力」っていうビーム兵器を持ってるから、100点の対応しないといけない。これは、つらいです。

「い、一撃で! 一撃で……撃破か!」

量産型の振り飛車党が瞬殺されて、久保先生もおどろいてます。撃ったアムロすらひいてる(笑)。
「一撃で……ザクを……」
そりゃあ、久保先生もボヤきたくなりますよね。
「連邦のモビルスーツは化け物か」
振り飛車党の人はね、もう痛いほど気持ちがわかると思うんですけども。
このへんね、深読みしなくてもみんな、わかっちゃうわけですよ。
「富野さん、マイナビから出てる『居飛車穴熊名局集』読んだな」って。
だって、その後にブライトがこんなこと言うんですよ。
「ガンダムの性能を当てにしすぎる。戦いはもっと有効に行うべきだ」
この苦言、完全に居飛車穴熊のことでしょ。
やっぱ言うじゃないですか、最初は急戦やれとか。玉のうすい囲いで戦って、腕力を身につけろとか。それと同じ。
このあたり、ちょっと元ネタを隠しきれてないところが、富野さんもまだ若かったんだなあって。
それくらい、居飛車穴熊ってのはすごいインパクトがあったんですね。だから、藤井猛九段とかも必死になる。
これ、結構有名なんですけど、あんまりだれも取り上げないんで、ちょっと今日は、そのことを言いたかったんですね、ハイ。

前回の続き。
振り飛車に、いや将棋界に革命をもたらした「藤井システム」。
この画期的すぎる新兵器を駆使し、藤井猛九段は新人王戦優勝から竜王獲得と、無人の荒野を行くがごとくの勝ちっぷりを見せていた。
そのもっとも輝かしい栄冠こそが「一歩竜王」で知られる、2000年の第13期竜王戦での劇的なフルセットの防衛劇。
結果もさることながら、
「あの羽生善治に藤井システム撃破をあきらめさせた」
という意味では、単に勝ったという以上の、とほうもない大きな評価を得たといってもよかった。
このころはまさに勢い的にも「システム無双」の時代だったが、その後は居飛車の研究も進み、少しずつ陰りが見えはじめる。
以前ほどには気持ちよく勝てなくなり、やがては藤井自身の言葉を借りれば「ファーム落ち」を余儀なくされてしまった。
ただ、システム自体は登板機会が減ったものの、そこは天下の藤井猛のこと。
まだまだアイデアはあふれているもので、たとえば2005年の王座戦。丸山忠久九段との一戦。
後手が四間飛車から、まずはシステム模様に組むも△74歩を突いてから、△64歩を保留する工夫を見せる。

これだと角筋を生かして△65歩の仕掛けがないから、居飛車穴熊に組まれてしまいそうだが、藤井は▲36歩の「牽制球」を投げさせたうえで、△32飛から△51角と転換。
△35歩と△73角ののぞきで3筋のさばきを見せ、潜らせんぞと、ゆさぶっていく。
ならばと丸山も角を転換して、▲37角とこのラインを先着。

△64歩と突いてない手をとがめて、△73桂は桂頭が寒いし、△73銀は美濃囲いがくずれてしまう。
△73角も▲同角成から▲24歩があって、後手が困っているようにも見えるが、次の手が、まず思い浮かばない手である。

△93香とかわすのが、「えー!?」と言う手。
▲91角成と馬を作れそうだが、それには△73銀で帰路を封鎖。
そうしておいてから、まあ1回2筋とか受けといて、△73角、△72金(玉)、△91銀で馬を取ってしまおうというねらいだ。

一応、説明されたらわかるけど、ようこんなん思いつくなあというか、思いついても指さないって。
丸山も目が点になっただろうが、角は成らずに▲46角と慎重に対応。
そこで△35歩、▲同角、△34飛と一転「さばきのアーティスト」久保利明九段のごとき、振り飛車のお手本のような軽快さを発揮。

▲46歩に△73角と、このラインを押さえて、▲48飛、△45歩、▲78金、△33桂、▲18香、△44銀。

駒がすべて使える全軍躍動で、これは振り飛車充分であろう。結果も藤井が勝ち。
続けてもうひとつ。2007年の王将戦。石川陽生六段との一戦。
▲76歩、△34歩、▲26歩、△54歩。

後手の藤井がゴキゲン中飛車を選択。
このころゴキゲンは穴熊封じに有力ということで、振り飛車党のみならず、羽生善治や谷川浩司など居飛車党も指していたが、藤井のそれはめずらしかった。
「ゴキゲン中飛車を指す気はないですね。いや、こんな断言しちゃったら、あとで指したくなったとき困るかな(苦笑)」
なんて内容のことをインタビューで語っておられたが、要は作戦として優秀なのは認めるが、自分が発見したわけでなく「流行っているからやる」みたいになってしまうのに抵抗があったのだろう。
そんな男が、わざわざ持ってきたとなれば、それはもうきっと、一味違う指しまわしが期待できるわけで、実際その通りとなる。

図は石川が2筋の歩を交換したところ。
ふつうなら△23歩と打つところだが、ここでも藤井は予想を裏切ってくるのだ。

△13桂(!)と跳ねるのが、なんと言う手か。
俗に「振り飛車は左桂が命」と言われるが、それを逆方向に背面跳び。
これでは桂馬が中央に使えないし、グズグズしてると▲16歩から▲15歩と桂頭を攻められてしまうのが嫌味だ。
その通り、石川は▲16歩と圧をかけるが、そこでヒラリと△44角。

飛車道を受けないどころか、どうぞ成ってくださいと。
まあ、▲21飛成なら△22銀とフタをして、△31金から生け捕りにしようということなのだろうけど、それにしても大胆で挑発的だ。
▲46歩に△26歩と、こっちから飛車先を止めれば、なんとなくねらいは見えてくる。

以下、先手が1筋を破っている間に飛車を転換し、逆に2筋を制圧してしまった。

将棋自体はまだまだこれだからだが、逆桂から飛車先突破というロマンあふれる手順を実現させた後手が気持ちいいのはたしかだろう。
将棋の方も、熱戦の末に藤井が勝利した。





























































































































