「妖刀」の切れ味は、すさまじいものがある。
ということで、前回は福崎文吾九段の鋭い手を見ていただいたが、今回も「妖刀」特集。
福崎文吾といえばタイトル2期の実績があるが、最初に十段(今の竜王)を取ったときは衝撃だった。
相手がトップ棋士である米長邦雄十段だったこともあるが、その内容がまた魅せるものだったからだ。
1986年の第25期十段戦は、米長邦雄十段に福崎文吾七段が挑戦。
このところの米長は不調で、少し前まで十段・棋聖・王将・棋王の「四冠王」に輝き、
「世界一将棋の強い男」
とブイブイ言わしていたはずが、そこをピークに絶不調におちいり、今では一冠に落ちこんでいる。
その最後の牙城に噛みついたのが福崎で、こちらは上り調子の中いきなり2連勝を決める。
このまま行くかと思われたが、米長も意地を見せて2つ返してタイに持ちこむ。
むかえた第5局が、福崎将棋の名局となった。
福崎が中飛車から穴熊に組むと、米長は急戦から穴熊にシフトするという奇策を見せる。

そこからねじりあって、この局面。
先手は2枚の竜が強力だが、後手の穴熊はそれ以上に固くて頼もしい。
ここで攻めが続けば後手がペースを握れそうだが、次の手が衝撃だった。

△89馬と、こっちを取るのがビックリの一着。
馬と桂の交換は大損のようだが、▲同玉、△66桂打で後手優勢。

私など馬を切るなら▲58の金と刺し違えるしか考えられないが、それは▲同竜と取られて竜の守備力が強いうえに、先手の穴熊も深い。

ここはむしろ、駒損しても穴熊本体にダメージを与える方が断然よく、先手陣は一気に弱体化した。
△66桂打に▲67歩と打ち、△58桂成、▲同竜と竜を受けに利かして守ろうとするが、△66歩と合わせて攻めは切れない。

△89ではなく、△58馬と切った局面と似ているが、玉が▲89に露出させられているのが痛すぎる。
さらに▲64桂の反撃には△61金と手堅く受け、▲72桂成、△同銀、▲53角にも△71金打(!)。

これだけ固められては、米長もイヤになったろう。
以下、「固い、攻めてる、切れない」で福崎快勝。
この将棋を観戦していた青野照市八段が、
「一生に一度でもいいから、こんな将棋を指してみたい」
そうつぶやいたとか。
もうひとつは、2つ目のタイトルとなった王座戦。
1991年の第39期王座戦は福崎文吾八段が谷川浩司王座(竜王・王位・棋聖)に挑戦。
福崎が2連勝といきなり奪取に王手をかけたが、谷川も負けじと2連勝のお返しでタイに持ちこむ。
最終戦は千日手指し直しから、谷川が先手で相矢倉に。
谷川「前進流」の攻めが決まって優勢に。

図は▲35角と金を取って、詰めろをかけたところ。
受けがむずかしいうえに、△87歩成からせまっても、▲96玉と逃げ出す筋があって捕まらない。
谷川が押し切ったに見えたが、ここで奇手が飛び出す。

△96桂が「妖刀」炸裂の妙手。
▲同歩と取ると、▲96への逃げ道が消えてるから△87歩成として先手玉は詰まされてしまう。
やむを得ず▲79玉と落ちるが、先手玉を危険な形にしてプレッシャーをかけた状態で△31角の勝負手。

▲22金を防ぎながら左辺への脱出路を開いて、先手はあせらされている。
この一連の手順に幻惑された谷川は、▲22銀、△88銀、▲69玉、△22角、▲同と、△同玉に▲13角成なら勝ちだったのに▲13香成としてしまう。
寄せの名手が間違ったのは、やはり△96桂のショックがあったせいだろう。
福崎が逆転勝ちを決め、王座のタイトルを獲得するのだった。





















































































