前回の続き。
1990年の第49期B級2組順位戦、その開幕局。
羽生善治竜王と前田祐司七段の一戦は横歩取り「△23歩」型に。

そこから、見たこともない力将棋となったが、やや先手の羽生が指せるのではとの評判。
しばらく進んで、この局面。

図は前田が8筋を継ぎ歩でこじ開け、△94銀と打ったところ。
陣形と厚みに差があり、押さえ込まれないよう後手も必死だが、この一見筋悪の手に対処を誤ってしまう。
ここでは金銀のスクラムをキープすべく、▲65歩と打てば良かった。

△85銀には▲86歩、△同銀、▲87歩と強く呼びこんで戦えば、金銀の枚数が多い先手のリードはキープできたのだ。

そこを▲76金上と素直に応じたものだから、△85銀と形の悪かった銀をさばかせてしまった。
▲同金、△同飛、▲87歩、△82飛に▲76銀。

こうして局面をサッパリさせた後、▲76銀と厚みを再構築して問題なさそうだが、次の手が思いのほか厳しかった。

△65歩で今度は後手に形勢が傾いた。
金銀どちらでも取れるが、どちらで取っても、まずい形に。
▲同銀は△86歩から十字飛車をねらわれる。

かといって▲65同金も、△94角と味良く飛び出して、▲77金くらいしかないが、△73桂から駒をバリバリ活用されて押し戻される。

これは2枚の角が急所に利いてきて、先手が受け切るのは困難だ。
やむを得ず△65歩に▲67金と辛抱するが、これでは売りだった金銀の防衛戦が威力半減。
△94角、▲77金上、△66金で喰いつかれている。

今度は一転、攻めが続きそうで有利なった感のある後手だが、もちろんここで気などゆるめられない。
なんといっても、相手は「天才」羽生善治。
この男はこういう局面から、根性と曲線的なねばりで、華麗な逆転術を見せるのを得意中の得意としてるのだ。

まだまだ油断はできないぞという、この局面がポイントとなった。
形勢は後手がやや押しているが、先手陣は5枚の金銀と竜までいて、まだ一撃ではくずれない。
ここで予想されていたのが、▲96歩とジッと端歩を突く手。

このいそがしそうな局面で、まるで1手パスのような優雅な手だが、こうやって
「やってこい」
とやられると、意外と後手もあせらされるところ。もちろん、玉のフトコロを広げているという直接的な効果もある。
ましてや羽生は、こういうパスのような手で相手の悪手を誘う「大山流」の手渡しをお家芸としており、いかにも指しそうなところだったが、選んだのは▲45歩。
これは早く攻めたいと、逆に羽生があせった凡手で、なにより前田を「ありがたい!」と安心させてしまった。
不利な局面では、善悪もさることながら、いかに「相手の嫌がる手」を指すかが、人と人の勝負でのキモなのであるから。
精神的な危機を乗り越えた前田は、勇躍△26金。

これが好手で、先手玉は処置なしになっている。
▲48竜と受けるが、△86歩と急所に手をつけ、▲64歩、△同飛、▲68金、△62飛、▲86金、△66歩、▲65歩。
指せば指すほど、先手の陣形がバラバラになって行く。
そこで△37金と取って、▲同竜に△84桂でいよいよ受けがなくなった。

▲77金打に△76桂、▲同金寄、△67銀とパワーボムの直撃を食らって、ついに羽生はダウン。

昇級候補の大本命が初戦に敗れるという波乱。
それどころか、羽生は2戦目にも57歳のベテラン吉田利勝七段に敗れ、その後8連勝するも8勝2敗。
またも頭ハネを喰らい、1期抜けの野望は打ち砕かれたのであった。

























































































