振り飛車党の諸君、聞こえるかね。
私は「ゲル・イビアナ団」の首領であるビッグ4元帥だ。

「アマチュアは振り飛車党が多いから、自分が振り飛車を指せない」
「なら、この世界から振り飛車党を全滅させればいいじゃん!」
ということで、我々は振り飛車党および、その防衛組織「FSDF(Furibisha Self-Defense Forces)」に全面降伏を要求する。
ただ、我々は慈悲深い。
もし降伏を受け入れるなら、諸君らには相掛かりを主戦場とする「26部隊」や、横歩取り原理主義団体「赤い男爵」支配地への移住は許可する。
かつては味方であったはずの「四間飛車穴熊」広瀬章人と「ノーマル三間飛車」永瀬拓矢、「藤井システム」中村太地はすでに君たちを裏切り、角換わり同盟である「リクライニング・シルバー」へと亡命した。
もし24時間以内に降伏しない場合は地底怪獣「バルスーク」による攻撃を開始する予定だ。
世界に散らばる振り飛車党と、その仲間たちを殲滅していくことになる。
もし君たちが無意味な抵抗をするならばどうなるか、ひとつ例をあげて見せよう。
ただ、見た後その恐怖に、諸君らの心臓が耐えられるかはわからんがね。ワッハッハッハッハッハッハ!
……ということで、前回は振り飛車穴熊と居飛車穴熊が戦うと、なぜかイビアナ有利で、勝率もイビアナがハッキリ高いという話をした。
ガッチリ固めても競り負けるなら、薄い玉だともっと悲惨なことになるわけで、今回はそういう例を。
1990年、第48期C級2組順位戦の最終局。
大島映二六段と依田有司五段の一戦。
大島はここまで5勝4敗だが、依田は調子が上がらず、まだ3勝。
負けると降級点がつき、これは前期に続く2つ目だからシャレにならない。
依田は4年前には途中まで6勝1敗、また2年前には開幕から6連勝し、あの羽生善治と昇級を争っていた。
地味ながら、その実力は認められていたのに、一体どうしてこうなったのか。
そこに、「穴熊の暴力」の存在がかかわってきているだろうことは、想像に難くない。
将棋の方は振り飛車党の依田に対し、大島はやはり居飛車穴熊。
しかも「ビッグ4」と呼ばれる最強の形に組んだが、中盤戦では依田がうまく指していると評判だった。

▲55金と力強い駒さばきで、完全に盤面を制圧。
一方の後手は、ガチガチに固めてこそいるものの、攻めて行く手がまったくない。
なにやら、元気のいい大将の「いっちょ、焼きに入ります!」という声でも聞こえてきそうで、どう見たって振り飛車完封試合である。
ところが、ここから大島がすごい手の作り方を見せる。

△35歩、▲同歩、△53角。
攻め手こそない後手だが、逆に言えばどこか一か所でも破れば「ビッグ4」があるから、それだけで勝てるとも言える。
▲36銀なら△34歩から押し戻していこうということだろう。

先手からすれば、こんな角だけの手作りなどなんとでもなりそうだが、これがなかなかそうもいかないのが、居飛車穴熊の強み。
気がつけば、盤面はこんな感じに。

先手の銀冠はどうなったと言いたくなるが、形勢自体はまだ先手が有利。
後手の攻め駒は銀だけだし、▲58玉から左辺に逃げ出せば捕まらなさそう。
△27銀成と金を取るなら、どこかで▲47玉から▲56玉と逃げれば不敗の態勢である。
なんとか「穴熊の暴力」をかいくぐり、降級点を回避したように見えた依田だったが、その考えは甘かった。
居飛車穴熊には「穴熊の暴力」以上に、もっと恐ろしい「穴熊の理不尽」という攻撃が、その裏に隠されているのだ。

△45銀上というのが、なんという手か。
銀のタダ捨て。それも、自陣にある守りの銀でのカミカゼアタック。
わけがわからんと▲同金だが、そこで△44銀(!)。

なんかもうムチャクチャな手順であり、絶対に好手とは思えないけど、これが通るのが「穴熊の理不尽」。
後手玉は鉄壁で、先手玉は紙のヨロイ。
ただそれだけのことで、駒得だろうが、と金ができようが、玉が広かろうが、すべてのアドバンテージは雲散霧消してしまうのだ。
これ、今まで見た中で一番「非人道的」な穴熊かも。

指した大島すら「ヒドイ攻めで……」と自虐モノだが、それを押さえきれないのも現実。
大島も神妙な振りをして、「これで勝てちゃうんだ」と、密かに笑いをかみ殺していたのではあるまいか。
読みを狂わされ、さらには降級点がちらつき「フルえ」にもさいなまれた依田は、その後に受け間違いが出て、この特攻を成立させてしまった。
なんだか……。宮部みゆきさんの傑作小説『魔術はささやく』を思い出しちゃうよ。
「ひどい、ひどい、あんまりだ……」
まさに『タイガーマスク』の歌う「ルール無用の悪党」である。
瀬戸と依田に共通しているのは、筋の良い中堅振り飛車党で、接近戦での粘着力より、きれいなさばきを得意としているが、プレッシャーには弱いイメージ。
どうも、こういう棋風の振り飛車は、イビアナのカモにされやすいのかもしれない。
(スーパー四間飛車で逆襲編に続く)